救急医への路

救急医への路 ~救急医を考えるみなさんへ~

その1 救急医とは?

以前は、救急医は何をする医者?とよく聞かれました。臨床研修制度のおがげでしょうか、最近は救急科という言葉も広まり、救急科の医師として働きたいと言う若手も増えてきました。

見学に来る学生さんや研修医が共通して尋ねるのが救急医としての「進路」です。おそらく、他科の医師より多様な働き方があるため、どうしたら救急医として重症の患者さんを救えるようになるのか、救急医としてどんな行き先が待っているのか、見え難いのでしょう。

救急医は「救急科専門医を持った医師」であり「様々な救急患者さんに適切な診断と初期治療ができる医師」と言えます。救急外来(ER)を中心に、様々な重症度・緊急度の患者さんの診断を行い、必要な診療科へ引き継ぐ「ER型救急」、三次救急と言われる重症患者さんを主に対象として、その診断から手術、集中治療を総合的に行う「救命型救急」、日本には大きく分けてこの2つのタイプの救急医があります。日本の救急医療は、高度成長時代に多く発生した交通事故による重症外傷や熱湯風呂による重症熱傷の患者さんを救命するために発展してきました。このため、救急医と言えば、救命型救急の医師を指すことが多かったのですが、自動車の安全性能の向上や風呂の温度管理の改善により、救命救急医が得意としてきた重症外傷・熱傷の患者さんは減少しています。その一方、高齢者や小児の軽症・中等症の救急搬送が増加し、近年では救命センターでもER型救急を行うところが多くなってきました。

救急医療は地域・社会のニーズや病院の体制によっても大きく異なります。少なくなったとはいえ、重症外傷や重症熱傷は日常生活の中で確実に発生し、災害時には突然、多数の重症傷病者が発生します。これらに対応できることはこれからも救急医として必須のskillです。一方で、その知識や技術を重症・軽症を問わず、患者さんの求めに応じて提供することも社会からは求められています。これからは、救命型救急/ER型救急に関わらず、重症患者さんを救命するための確実な知識・技術を持ち、それを社会や地域の変化に応じて柔軟に発揮できる救急医が求められるでしょう。

その2 名市大救急科のキャリアプラン

平成29年度から始まる新専門医制度では、医学部卒後2年間の初期研修の後、3年間の専門研修を受けて救急科専門医を取得できることになります。卒後5年間で一通りの救急患者さんの対応は身につけられますが、本当に重症の患者さんに対峙するには卒後10年位のトレーニングが必要です。図に示すように、名市大病院救急科では、卒後5年から10年かけて一人の救急医を育てるつもりで研修プログラムを組んでいます。3年間の救急科専門研修の間に、将来どのような救急医になるかを専攻医(専門研修中の医師)とともに考え、目指す医師像に向けて必要な研修をサポートします。研修先については、本人の希望と家庭環境などを考慮し、専攻医が無理なく仕事と家庭を両立できるように名市大の医局が研修先との相談を行います。愛知県内・外を問わず、広い視野で必要な研修を行い、10年後には救急医として自信を持って救急患者さんの前に立てるよう皆さんをサポートします。

名古屋市立大学救急科 キャリアプランの例

外傷外科コース

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Critical Careコース

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ERコース

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大学院・研究コース

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その3 救急医学と研究

救急と研究が結びつかないと言われる方はまだ多いです。でも、救急現場程、研究の種が多く蒔かれているところは他にありません。救急外来には毎日、様々な患者さんが搬送されます。同じような年齢や疾患でも、患者さんによって実に様々な生体反応が見られます。また、どうしたらこの患者さんを助けることができたんだろう、と悔し涙を流すことも少なくありません。それらの「どうして?」という疑問、「何とかしたい。」という想いがすべて臨床研究、疫学研究、基礎研究へとつながり、それらを解明することが救急医学です。

名市大病院では、救命救急センターとして重症の患者さんを受けるだけでなく、かかりつけの患者さんや近隣に住む方々では重症・軽症を問わず救急車を引き受けています。大学病院として、救急医療で地域に貢献するのはもちろんですが、様々な救急患者さんの中から、将来の新しい治療につながる研究の種を見つけることを学生さんや研修医には伝えたいと思っています。

名市大病院で救急を学ぶことは、「救急医療」と「救急医学」の両方を学ぶことです。